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京都地方裁判所 昭和55年(行ウ)14号 判決 1983年12月09日

京都市中京区壬生坊城町四八番地三

壬生坊城団地一棟五〇六号

原告

荒田正明

訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市東山区瓦町通東大路西入ル新シ町

被告

東山税務署長

福田法夫

指定代理人検事

田中治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が、昭和五四年三月一二日付で原告に対してした昭和五〇年分ないし昭和五二年分(以下本件係争年分という)の更正処分(異議申立による決定によって一部取り消された後のもの・以下本件更正処分という)のうち、総所得金額が、昭和五〇年分は四八万四二六〇円、昭和五一年分は六二万四〇〇〇円、昭和五二年分は五〇万〇二〇〇円をいずれも超える部分及びこれに対応する各過少申告加算税賦課決定処分を取り決す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  本件請求の原因事実

(一)  原告は、スナック瀬里奈を経営しているが、被告に対し、本件係争年分の所得税確定申告をした。なお、原告は、白色申告者である。

被告は、昭和五四年三月一二日、更正処分をし、併せて過少申告加算税賦課決定処分をした。

原告は、同年五月一二日、被告に対し、異議申立をしたところ、被告は、昭和五五年一月三〇日、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の各一部を取り消す旨の決定をした。

原告は、国税不服審判所長に審査請求をしたが、同審判所長は、同年一一月二六日、棄却の裁決をした。

以上の課税の経緯とその税額は、別表1の1ないし3に記載したとおりである。

(二)  しかし、本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(異議申立による決定によって一部取り消された後のもの・以下本件賦課決定処分という)は、次の理由によって違法であり取消しを免れない。

1 原告は、被告の部下職員の帳簿書類等の提示の要求に対し、次回調査期日に提示することを約束しその通知を待っていた。ところが、部下職員は、調査期日の通知をしないで、いきなり反面調査をした。したがって、このような調査は、違法である。

2 被告は、原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した点で違法である。

(三)  結論

原告は、本件更正処分のうち、原告の事業所得金額が昭和五〇年分は四八万四二六〇円、昭和五一年分は六二万四〇〇〇円、昭和五二年分は五〇万〇二〇〇円をいずれも超える部分及びこれに対応する本件賦課決定処分をいずれも取り消すよう求める。

二  被告の答弁と主張

(認否)

(一) 本件請求の原因事実中(一)の事実は、認める。

(二) 同(二)の主張は、争う。

(主張)

(一) 被告は、部下職員を原告の事務所に行かせて本件係争年分の事業所得金額の計算の基礎となるべき帳簿書類等の提示を求めたが、原告は、調査に全く非協力の態度をとった。

被告は、仕方なく反面調査をした結果に基づき、原告の本件係争年分の事業所得金額を算定した。したがって、被告の調査には、なんらの違法はない。

(二) 原告の本件係争年分の事業所得金額の計算及びその計算根拠は、次のとおりであり、その範囲内でなされた本件更正処分及び本件賦課決定処分は、適法である。

1 主位的主張

原告の本件係争年分の事業所得金額は、別表2のとおりである。以下に分説する。

(1) <2>売上原価(仕入金額)

原告の本件係争年分の仕入金額は、別表3のとおりである。なお、原告は、本件係争年分の期首及び期末のたな卸高を計上していないから、両者の金額に大差がないと認め、仕入金額を、売上原価と同額とする。

(2) 売上原価率(<2>の同業者率)

原告の本件係争年分の売上原価率、一般経費率(<4>)及び給料賃金率(<6>)を算出するため、次の条件のもとに同業者を機械的に抽出した。それが、別表4の1ないし3のAないしHの八件である。

(ア) 原告の事業所のある東山税務署管内のいわゆる祗園地区で、個人でスタンド・バー(スナックを含む)を営む納税者のうち、本件係争年分の所得について青色申告書を提出していること

(イ) 本件係争年分とも、それぞれ年間を通じて事業を継続していること

(ウ) 他の業種目を兼業していないこと

(エ) 本件係争年分の所得に関し、不服申立又は訴訟係属中でないこと

(オ) 収入金額が、昭和五二年分で一五〇〇万円から五〇〇〇万円の範囲内であること

この条件を満すものとして抽出された者から、さらに、従業員数、接客設備(椅子数)及び商品(酒類)の売価について、原告のそれと類似している者を選んだ。すなわち、

原告の従業員数は、四ないし五名であり、椅子数は、二〇ないし二二であり、また酒数の売価は、ビール(中瓶)五〇〇円、酒六〇〇円、ホワイトホース八〇〇〇円であるから、これらのすべてと同一であるか類似している同業者を選んだ。

このようにして選ばれた別表4の1ないし3のAないしHの八業者(以下本件同業者という)は、原告と、業態及び事業規模が類似しているばかりか、事業内容の細部にわたって類似している。したがって、本件同業者の比率によって同業者率(売上原価率、給料賃金率)を算出することは、合理的である。

(3) <1>収入金額

<1>収入金額は、<2>売上原価(仕入金額)に本件同業者の売上原価率を適用して算出した金額である。

(4) <4>一般経費

<4>一般経費は、<1>収入金額に本件同業者の一般経費率を適用して算出した金額である。

(5) 特別経費

(ア) <6>給料賃金

<6>給料賃金は、<1>収入金額に本件同業者の給料賃金率を適用して算出した金額である。

(イ) <7>減価償却費

(昭和五〇年分)

八万九九一〇円(車両スカイライン)と一万一二〇五円(車両ローレル)と八万五七一五円(繰延資産の償却)との合計一八万六八三〇円

車両の減価償却については、別表5に記載のとおりであり、繰延資産の償却については、次の計算による。

原告が、昭和四八年一〇月、店を入手するため支払った五二〇万円の内訳は、保証金三四〇万円、賃借権の代価一八〇万円である。しかし、保証金は、賃貸借契約解除の際返還される性質のものであるから、減価償却及び除却損の対象とならない。そうすると、残余の一八〇万円について、繰延資産の償却をすると、その年間償却費は、八万五七一五円になる。

(店舗耐用年数)(原告賃借時期)(店舗新築時期) (償却期間)

35年-(48年11月-44年12月)×70%=21年

(店舗賃借権の額)(償却期間)(年間償却額)

1,800,000円÷21年=85,715円

(昭和五一年分)

一三万四四六〇円(車両ローレル)と八万五七一五円(繰延資産の償却)との合計二二万〇一七五円である。

(昭和五二年分)

一三万四四六〇円(車両ローレル)と八万五七一五円(繰延資産の償却)と四万四三七〇円(建物内装工事の減価償却)との合計二六万四五四五円である。

建物内装工事の減価償却については、次の計算による。

原告が昭和五二年七月、内装工事費として三四〇万円を支払ったが、その耐用年数は、三五年である。そうすると、その償却費は、四万四三七〇円になる。

(償却基礎額) (定額法の償却率)

<省略>

なお、車両の耐用年数については、新車については六年(減価償却資産の耐用年数等に関する省令((以下耐令という))別表第一((種類・車両及び運搬具構造又は用途・前掲以外のもの、細目・自動車・その他のもの・その他のもの))参照)であり、昭和四八年九月取得の中古三年おちについては三年(耐令三条、耐用年数の適用等に関する取扱通達一-五-二)として計算されるべきである。

また、事業専有割合については、ホステスの送迎は夜間に限られることから、五〇パーセントとみるのが相当である。

(ウ) <8>地代家賃

原告が、訴外池沢武夫に対して本件係争年分の地代家賃として支払った金額は、次のとおりである。

昭和五〇年分 六七万五〇〇〇円

昭和五一年分 七八万円

昭和五二年分 九〇万円

(6) <11>事業専従者控除額

<11>事業専従者控除額は、原告の本件係争年分の確定申告書に記載された原告の妻に関する事業専従者控除額である。

(7) <12>事業所得金額

原告の本件係争年分の<12>事業所得金額は、別表2の<1>ないし<11>によって計算されたものであり、これが、本件更正処分の事業所得金額を超える金額であることは、明白である。

2 予備的主張

原告の本件係争年分の事業所得金額は、別表6のとおりである。以下に分説する。

(1) <3>売上原価(仕入金額)

<3>売上原価の内訳は、別表7のとおりである。

(2) <2>売上原価率

別表の<2>の同業者率と同じである。

(3) <5>経費率

別表4の1ないし3の経費率である。

(4) <8>事業専従者控除額

別表2の<11>事業専従者控除額と同じである。

(5) <9>事業所得金額

原告の本件係争年分の<9>事業所得金額は、別表6の<1>ないし<8>によって計算されたものであり、これが、本件更正処分の事業所得金額を超える金額であることは、明白である。

三  原告の認否と推計課税に対する反論

(認否)

被告の主張のうち、別表2の<2>売上原価(別表3)、<7>減価償却費のうち、原告が昭和四八年一〇月店を入手するため五二〇万円を支払った事実、原告が昭和五二年七月内装工事費として三四〇万円を支払った事実、車両スカイライン、ローレルの取得時期と取得価格、<8>地代家賃、<11>事業専従者控除額、以上の各事実は認め、その余の主張は、すべて争う。

(反論)

(一) 原告のようなスナック経営では、仕入金額に同業者の原価率を適用して売上原価を算出すること自体が、不合理な推計方法である。すなわち、

スナックに行く客は、酒類等をたしなみながら、店のかもし出す雰囲気を薬しむのであるから、酒類等の仕入金額に相応する売上があるわけではなく、同業者ごとに売上金額は、異なる。したがって、酒類等の仕入金額に同業者率を単純に適用して売上金額を推計することでは、実額に近似する数値を算出したことにならないのである。

(二) 本件同業者を抽出する条件として、同業者の収入金額が昭和五二年分で一五〇〇万円から五〇〇〇万円の範囲内にあることとしている。しかし、原告の収入金額を推計するのに、予め原告の収入金額の上限と下限とを設定すること自体矛盾である。そのうえ、本件同業者の仕入金額は、原告の本件係争年分の仕入金額(売上原価)と比較して差がありすぎ近似していない。

(三) 本件同業者の中には、売上原価に属さない消耗品(わりばし、おしぼり、つまようじ、サランラップ、ごみ袋など)の仕入を売上原価に含めているものがある。したがって、これを除外しない本件同業者の売上原価率は、不合理である。

(四) 本件同業者の所得税青色申告決算書そのものの写が証拠として提出されていない。被告が提出した乙第六号証の所得税青色申告決算書は、被告の職員が書き写したものであるから、その正確性の担保がない。

しかも、乙第六号証によると、本件同業者の中には、経費として飲食税を記載している者(A、C((昭和五一年分、昭和五二年分))、D、H)とそうでない者(B、C((昭和五〇年分))、E、F、G)とがある。そうすると、飲食税を売上金額に計上している場合に売上原価率を算出すると、誤った売上原価率が算出される。したがって、被告の主張する売上原価率は、この点で不合理である。

(五) 本件同業者の中には、売上金額として飲食税を計上している者があるから、このことを無視して一般経費率を算出することは、不合理であるし、本件同業者が、前述した消耗品を経費として計上しているかどうか不明であるから、一般経費率は、この点でも不合理である。

(六) 被告主張の給料賃金率は、不合理である。すなわち、

家族専従者に支給している給与は、給料賃金に加算して算出しなければならない。しかし、被告は、これを除外している。本件同業者の給料賃金率には、大きなバラツキがあり、個々の業者も、その年度によって大きな差がある。したがって、推計の合理性の担保の保証がない。

昭和五〇年度 最大四二・四九% 最少一九・五%

昭和五一年度 最大四二・五九% 最少一七・六%

昭和五二年度 最大四三・八九% 最少一四・五%

同業者Eの給料賃金率

昭和五〇年度 三九・五三%

昭和五一年度 二七・四二%

昭和五二年度 四三・八九%

(七) 別表7のうち別表3以外の仕入先は、前記消耗品であるから、売上原価として計上すべきではないし、現金のうちには、トイレットペーパーなどの諸雑費のための支出が含まれている。

四  原告の特別経費の主張

(一)  雇人費

原告の本件係争年分の雇人費は、次のとおりである。

昭和五一年分 一三二〇万五〇〇〇円

昭和五二年分 一二四三万七五〇〇円

その内訳は、別表8のとおりであり、ホステスの数は、ママを除いて常時四名である。

昭和五〇年分の雇人費の資料はないが、一二〇〇万円以上の支出があったものと推定される。

(二)  減価償却費

1 原告の本件係争年分の建物(工事費)及び車両の減価償却費は、別表5のとおりである。

2 除却損

原告は、昭和五二年七月、昭和四八年に五二〇万円を投じてした内装工事による内装を取り毀した。その償却残高は、三四〇万六〇〇〇円であるから、この額は、昭和五二年分の経費として計上されなければならない(昭和四八年から昭和五一年までに一七九万四〇〇〇円を償却)。

五  原告の特別経費の主張に対する被告の反論

(一)  雇人費

原告主張の雇人費を裏付ける証拠はない。

(二)  減価償却費

原告主張の耐用年数を争う。

原告が、昭和四八年一〇月に支出した五二〇万円がすべて減価償却の対象となるわけではなく、そのうちの店舗賃借権の価額一八〇万円についてだけその対象になる。

(三)  除却損

原告が、昭和四八年一〇月に支払った五二〇万円の中に内装工事費が人っていないから、除却損はない。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  本件請求の原因事実中(一)の事実(原告の本件係争年分の所得税の課税経過)は、当事者間に争いがない。

二  調査の違法について

(一)  課税処分が適法であるためには、手続が適正になされることが必要であることはいうまでもない。したがって、課税処分の取消訴訟で訴訟の対象(訴訟物)とされるのは、処分の内容及び手続の両面にわたる違法事由一般であると解するのが相当である。

(二)  そこで、この視点に立って、原告が主張する調査の違法性について判断する。

成立に争いがない乙第一ないし第四号証、証人岡山栄雄、同市木真二の各証言、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨を総合すると、次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(1)  被告は、原告の本件係争年分の確定申告書の所得金額に疑問をもち、部下職員に調査を命じた。

(2)  部下職員は、昭和五四年二月ころ、三回にわたって、原告に対し、所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示を求めた。

しかし、原告は、調査理由を開示しない限り、帳簿を見せないという態度をとった。

(3)  このようにして、部下職員は、これ以上原告の協力が得られないものと判断し、反面調査による推計課税の方法をとることにした。

(三)  以上認定の事実によると、被告の調査には、なんら違法の点はないとしなければならない。したがって、原告の主張は、採用しない。

三  本件更正処分及び本件賦課決定処分の違法について

(一)  本件同業者の選択の合理性について

成立に争いがない甲第一号証、証人岡山栄雄、同中西弘(第一、二回)の各証言によって成立が認められる乙第五、六号証、同第二四、二五号証や右各証言、原告本人尋問の(第一回)結果の一部によると次のことが認められ、この認定に反する証人市木真二の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)の一部は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

(1)  東山税務署管内には、スタンド・バー(スナック)を経営する納税者が、約一〇〇件あり、そのうち青色申告者が、約五〇件あった。

(2)  大阪国税不服審判所京都支所国税審査官中西弘は、この五〇件の中から、原告と類似業者を抽出することにした。

中西弘は、その方法として、次の条件を設けた。

(ア) 祗園地区で、個人でスタンド・バー(スナック)を営んでいること

(イ) 年間を通じて事業を断続していること

(ウ) 他の業種目を兼業していないこと

(エ) 本件係争年分の所得税について、不服申立又は訴訟係属のないこと

(オ) 収入金額が、昭和五二年度で一五〇〇万円から五〇〇〇万円の範囲内にあること

これは、異議決定で、原告の昭和五二年分の事業所得金額が二八七万〇八四五円と認定されたため、この額を基準にして設定されたものである。

(カ) 従業員数が、三名ないし六名であること

(キ) 椅子数は、一八ないし二四であること

(ク) 酒類の売価は、ビール(中瓶)五〇〇円、酒六〇〇円、ホワイトホース八〇〇〇円(ただし、二割前後の許容範囲がある)であること

このような条件にあうものを、順次絞り込んで行ったところ、本件同業者八件が抽出された。

中西弘は、この抽出作業中、特に立地条件を重視し、同業者の実地調査をしたり、同業者の顧問税理士に電話で問合せをしたりして、原告の営業と同一かそれに近い業者を選ぶことに努力した。

(3)  中西弘は、この調査を通じて、異議審理庁の抽出した同業者七件と対比したところ、四件は重復したので、自分の選んだ八件に重複しない三件を加えた一一件を対象にして更に検討を加え、本件同業者が、最も原告の営業に類似した業者であるとの結論に達した。

(4)  本件同業者は、裁決のときにも利用され、本件訴訟でも、被告によって利用されている。

以上認定の事実によると、税務職員によって選択された本件同業者は、原告の営むスナックと立地条件、営業規模、営業内容が類似した業者であり、その抽出過程には、合理性、妥当性があるとしなければならない。勿論、細部にわたった場合、両者には差異があろう。しかし、推計課税の方法が是認されている以上、その差異は、やむをえないものとして許されなければならない。したがって、その差異が許容度をこえ不合理であることは、原告の方が、積極的に主張立証しなければならないのである。

(二)  原告は、同業者を抽出するのに、予め原告の昭和五二年分の収入が一五〇〇万円から五〇〇〇万円の範囲に設定したこと自体矛盾であると主張しているが、前記認定のとおり、原告の昭和五二年分の事業所得が、異議決定で二八七万〇八四五円と認定されたので、これを基準にして原告の営業と類似した同業者を選び出すための一条件として設定されたもので、このこと自体合理性があり、原告主張のような矛盾があるとすることはできない。

(三)  原告は、本件同業者の青色申告書の写を証拠として提出せず、税務職員の整理した一覧表(乙第六号証)を提出していることを非難しているが、このことのため、被告が抽出した本件同業者の合理性が奪われる理はない。被告は、青色申告書の写を証拠として提出できるし、税務職員の整理した一覧表を証拠として提出できるわけで、その選択は、被告にまかされているのであり、原告がそれを非難することは、的外れである。

(四)  そこで、本件同業者を用いて、被告の主位的主張について検討する。

(1)  原告の本件係争年分の売上原価(別表2の<2>、別表3)は、当事者間に争いがない。

(2)  被告は、本件同業者の売上原価率(<2>の同業者率)を適用して<1>収入金額を算出して主張しており、その金額は、計算上誤りがない。

ところで、原告は、その算出方法に合理性がないと主張しているが、原告の営むスタンド・バー(スナック)では、酒類等の仕入と売上とが対応するのが一般であるから、酒類、つまみなどの売上原価に本件同業者の売上原価率を適用することには、合理性があるとしなければならない。

原告は、本件同業者の中には、売上原価に属さない消耗品の仕入を売上原価に含めているものがあると主張している。そして、証人中西弘の証言(第一、二回)には、これにそう供述部分がある。

しかし、本件同業者八件のうち五件は、税理士が関与している(証人中西弘の証言(第一回)によって認める)ところ、税理士の常識では、消耗品の購入を雑費(経費)として経理上処理し、売上原価に計上しないことが当裁判所に顕著である。したがって、本件同業者の少なくとも半数以上は、消耗品を売上原価として計上していないと推認される。

そうすると、本件同業者のうち消耗品を売上原価に計上した者の数を正確に把握しえないが、そのことのため、本件同業者の売上原価率が不合理となり適用できないとまで断定することはできない筋合である。

原告は、本件同業者の中には、売上金額の中に飲食税を含めて売上として計上している者があると主張している。

前掲乙第六号証によると、本件同業者A、C(昭和五一年分、昭和五二年分)、D、Hが、経費中に飲食税を計上しているから、売上(収入)金額の中にも飲食税を含めているものと推認される。

しかし、本件同業者八件のうち四件足らずであり、その金額も、夫々の売上(収入)金額と対比して微々たる額であるから、この飲食税の計上の有無を度外視して売上原価を算出しても、合理的に欠ける点はないといわなければならない。

(まとめ)

以上の次第で、当裁判所は、原告の本件係争年分の<1>収入金額は、被告主張どおりの額が正当であると認める。

(3)  被告は、本件同業者の一般経費率(<4>の同業者率)を、<1>収入金額に掛けて<4>一般経費を算出して主張しており、その金額は、計算上誤りがない。

原告は、本件同業者中に経費として飲食税を計上している者があるから、このことを無視して一般経費率を算出することは、不合理であると主張している。

しかし、原告は、自分が会計処理上飲食税をどのように処理していたかを主張立証しないのであるから、被告としては、本件同業者が飲食税を経費に計上しているかどうかを吟味することなく、一般経費率を算出することは許されるとしなければならない。

前掲乙第六号証によると、本件同業者は、その経費の項目が区々であることが認められるが、その平均値である同業者率を算出するのであるから、経費の項目が区々であることを前提として単純計算するのが、却って合理的であるといえるのである。

そこで、原告の本件係争年分の<4>一般経費は、被告主張の額が正当であると認める。

(4)  <6>給料賃金について、被告は、本件同業者の給料賃金率によっているのに対し、原告は、実額の主張をしている。

原告主張の別表8の裏付けは、甲第四、五号証である。

そこで、原告主張の別表8の金額が正しいものとすると、次のようにならざるをえない。

(昭和五一年分)

13,205,000円÷32.44%=40,705,900円

(支給人件費) (同業者率) (推定収入金額)

(昭和五二年分)

12,437,500円÷34.76%=35,781,000円

原告主張の給料賃金をそのまま認めた場合、収入金額を大幅に増額しないことには両者の均衡が保てないことが、右の計算式の結果によって明らかである。ということは、原告が収入金額の実額を正確に主張立証しないで、給料賃金の実額を主張しようとする点に無理があるのである。

そこで、原告の給料賃金の実額主張を採用せず、被告の本件同業者の給料賃金率を採用して、原告の本件係争年分の給料賃金を算出することにする。そして、その額は、被告主張の<6>給料賃金の額になることは、計算上明らかである。

原告は、被告主張の給料賃金率には、家族専従者に支給された給料を除外している点で不合理であると主張しているが、前掲甲第四、五号証によると、原告の妻には給料を支払っていないことが認められるから、家族専従者の給料を除外した方が、原告の経営の実体に合致することになる。

したがって、原告のこの主張は、採用の余地がない。

(5)  <7>減価償却費

(車両)

原告主張の車二台の取得時期と取得価格は、当事者間に争いがない。

新車の耐用年数は六年、中古車の耐用年数は三年として減価償却しなければならないことは、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一の種類-車両及び運搬具、構造又は用途-前掲以外のもの、細目-自動車のうちその他のもの、同省令第三条、耐用年数の適用等に関する取扱通達一-五-二によって明らかである。

そして、原告は、これらの車が、ホステスの夜間の送迎に利用されていたことを明らかに争わないから、自白したものとみなす。したがって、車の事業専有割合は、五〇パーセントとみられる。

以上のことを前提に、原告の二台の車の減価償却費を計算すると、被告主張額になる。

(昭和四八年一〇月の店舗の入手)

原告が、昭和四八年一〇月、店を入手するため五二〇万円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

もっとも、原告は、そのときの全部の支出が八七〇万円であると原告本人尋問の結果(第二回)中で供述しているが、そのことを裏付ける証拠はない。

そこで、五二〇万円の性格であるが、成立に争いがない乙第二七号証、公務員が作成したものであるから成立が認められる同第二三号証、同第二六号証、同第二八号証、原告本人尋問の結果(第二回)によると、保証金として三四〇万円を賃貸人に支払い、店舗の設備、内装、場所的利益など一切を含めた権利金として一八〇万円を前の賃借人に支払ったことが認められ、この認定に反する証拠はない。そして、前掲乙第二七号証によると、保証金は、一定の条件のもとに契約終了時原告に返還されることになっていることが認められる(二二条参照)。

そこで、一八〇万円について、前記省令三条一項により、附属設備(中古)一式として減価償却をする。

<省略>

(端数切捨)

180万円の残存価格=162万円

162万円×0.142(定額法の償却率)=23万0,040円

昭和50年分、昭和51年分

<省略>

昭和52年分

<省略>

(除却損)

未償却残高は、昭和五二年分の除却損として計算することとする。

180万円-(48年分3万8,340円+49年分23万0,040円+50年分23万0,040円+51年分23万0,040円+52年分11万5,020円)=95万6,520円

(昭和五二年七月の建物内装工事)

原告が、昭和五二年七月三四〇万円を支出して内装工事をしたことは、当事者間に争いがない。

この附属設備(内装費)一式の法定耐用年数を一〇年として減価償却をすることにする。そうすると、昭和五二年分は、原告主張どおり一五万三〇〇〇円になる。

(まとめ)

昭和五〇年分の減価償却費 三三万一一五五円

23万0,040円+8万9,910円+1万1,205円=33万1,155円

昭和五一年分の減価償却費 三六万四五〇〇円

23万0,040円+13万4,460円=36万4,500円

昭和五二年分の減価償却費 一三五万九〇〇〇円

11万5,020円+95万6,520円+15万3,000円+13万4,460円=135万9,000円

(6)  <8>地代家賃、<11>事業専従者控除

これらの項目の金額は、当事者間に争いがない。

(7)  原告の本件係争年分の事業所得金額

以上によって認定された金額を基礎として、原告の本件係争年分の事業所得金額を計算すると、別表9の<11>事業所得金額のとおりとなる。

(五)  まとめ

そうすると、本件更正処分の事業所得金額が、原告の本件係争年分の事業所得金額を下廻る額であることは、明らかである。したがって、本件更正処分及び本件賦課決定処分には、なんらの違法がないことに帰着する。

四  むすび

被告の予備的主張を判断するまでもなく、原告の本件請求は失当であるから棄却し、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 古﨑慶長 判事 小田耕治 判事補 西田眞基)

別表1の1 原告の昭和50年分所得税の課税関係一覧表

<省略>

別表1の2 原告の昭和51年分所得税の課税関係一覧表

<省略>

別表1の3 原告の昭和52年分所得税の課税関係一覧表

<省略>

別表2 事業所得金額の計算

<省略>

別表3 係争各年分の仕入金額の明細

<省略>

別表4の1 昭和50年分の同業者率の算定根拠

<省略>

別表4の2 昭和51年分の同業者率の算定根拠

<省略>

別表4の3 昭和52年分の同業者率の算定根拠

<省略>

別表5

減価償却費の内訳と金額

<省略>

<省略>

別表6

原告の事業所得金額

<省略>

別表7 本件係争年分の仕入金額の明細

<省略>

別表8 原告主張の雇人費

<省略>

別表9

裁判所認定の事業所得金額

<省略>

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